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さて、直近の住宅部材の話の中で、年末前からちらほらと噂になっている半導体不足による住宅設備などの入手困難についてまとめてみました。要因は様々なのですが、主な要因のひとつとして、『半導体不足』があげられます。半導体が不足するだけでこんなにも身近なものまで調達ができなくなるのですね。住宅の竣工にあたり、トイレがない、IHがない、エコキュートがないなど、困った問題も実際出てきておりますが、正しい理解をすればどのように対処すべきが最も近道なのかがわかるかもしれません。そこで今回は、たまたま見つけた記事を下記の通り紹介いたします。興味があれば読んでみてください。
2022年中の完全解消は困難!世界を悩ませる「半導体不足」の正体
すぐには解消しない
2021年、新型コロナウイルスとともに世界を覆ったのが「半導体不足」だ。 IT機器はもちろん、自動車から湯沸かし器にいたるまで、さまざまな機器が半導体の不足によって生産に支障が出て、品不足や操業停止に陥った。 2022年に入っても、各所の状況を見るかぎり、残念ながらすぐに解消……というわけにはいかない雲行きだ。 半導体はなぜ、これほど不足したのか? 「半導体不足」とは、いったいどのような状況なのか? それを解説してみたい。
なぜ起きたのか?
基本的な点から始めよう。──そもそも、半導体不足はなぜ始まったのか? 多くの人は、「コロナ禍におけるIT機器の需要増加が原因」と考えているかもしれない。だが、話はそれほど単純ではない。 半導体不足そのものの始まりは、アメリカ大統領がまだドナルド・トランプ氏だった当時に遡(さかのぼ)る。アメリカはその頃から、中国に対する経済的な対立姿勢を鮮明にしはじめた。 2019年以降、まずは中国企業・ファーウェイに対する締めつけを強化した。結果としてファーウェイは、スマホ市場における優位な立場を失っていくのだが、同社は製造のために、グローバル市場での半導体調達を強化する。同時期に、中国企業に向けた半導体調達に制約がかかることになり、そのしわ寄せは台湾企業に向かうこととなった。 このことだけなら、半導体不足は今ほど深刻なものにはならなかったかもしれない。 だが、複数の不幸がそこに重なった。
複雑に絡み合う要因
2021年2月には、アメリカ・テキサス州を大寒波が襲って電力不足が生じ、日本では同年3月、自動車用半導体大手のルネサス エレクトロニクスの生産子会社で火事が発生した。翌々月の5月には、台湾で水不足が起きている。 中国の電力不足は今なお継続中で、工場の操業に影響している。いずれも、半導体の製造に大きなマイナスのインパクトを与える出来事だ。 そしていうまでもなく、現在はコロナ禍の只中にある。物流は正常ではなく、特に海運によるコンテナ輸送は課題を抱えている。世界的にコンテナが不足しており、運送費が高騰しているからだ。 半導体製造の現場で生産効率が落ちるのは、「半導体工場」で起こることだけが原因ではない。水や電気の不足に影響を受けることもあれば、必要な資材が届かないことで製造が滞ることもある。 これらはどれも、複雑に絡み合っている要因ばかりだ。結果として、どれか一つが解決しても、すぐに半導体不足が解消することにはつながらず、時間をかけて事態の正常化を目指すしかない。
それでは、「半導体不足」とは、いったいどんな状況を指すのだろう? デジカメやゲーム機等においても、なかなか手に入らない製品が増えてきた。たとえばアップルに関しては、2021年モデルのiPhoneの生産について、当初の目標から数量を引き下げる計画だ、と報道されている。iPadやMacBook Proも、2021年末の段階で3~4週間の納期が必要になっている。 半導体不足は生産を遅延させ、納期の長期化を生み出している。同時に、人気があっても予定以上の量産ができず、結果として品不足を生み出しているのだ。 こうした話からは、いかにも「最先端の半導体が足りていない」というイメージをもつ人が多いかもしれない。 だが、それは「大いなる誤解」だ。 現在の工業製品には、あらゆる部分に半導体が使われている。パソコンのCPUのように中核となる半導体はもちろん、ディスプレイパネルに画像を表示するための処理をおこなうパーツや電源をコントロールするためのパーツ、無線通信をおこなうためのしくみなど、多数の半導体から構成されているのが通常だ。1つのピースが足りないだけでジグソーパズルが完成しないのと同様、どんな工業製品もパーツが1つ足りないだけで製造不能となるのだ。 実際問題、不足しているのは「高性能で最先端の半導体」ではない。前述のiPhone減産についても、足りないのは無線通信やディスプレイコントロール用のパーツだといわれている。そのような半導体は複数のメーカーから供給されており、設計変更などを含む各種の対策は講じられつづけているのだが、「それでも足りない」状況が生まれているのだ。
自動車も同様だ。 自動車の場合はそもそも、車内で使われるカーナビやオーディオ機器などを除けば、最先端の半導体はあまり使われていない。エンジンや駆動系に近い部分は、熱や振動などが厳しい“過酷な環境”だ。そのような環境で安定して動作させるには、最新の半導体技術でつくられたもの「ではない」ほうが都合がいい場合も多いのだ。 EV(電気自動車)ではソフトウエア制御の比率が高まるが、だからといって、いきなり自動車全体が最先端半導体だけでつくられるようになるわけではない。現在の自動車に使われているような、「厳しい環境でも使える枯れた半導体」が多数必要になる、という点に変化はない。 半導体不足は、いくつもの条件が重なった結果として生じたものだ。半導体はさまざまな地域の工場でつくられており、それゆえに、トラブルの影響が大きくなっている。もともとは地域分業によって製造効率を高めていくための手法だったが、今回は皮肉にも「足りない状況」を世界的に拡大させることにつながってしまった。
このような状況を背景とするため、半導体不足を解消する「シンプルな解決策」は存在しない。 コロナ禍が落ち着くことで物流の正常化が進むのがいちばんだが、それだけで一気に改善が進むわけではない。半導体不足がいつ解消するかは、専門家のあいだでも意見の分かれるところだが、「2022年中の完全解消」は、かなりの楽観的な見方である。 とはいうものの、今後少しずつ解消に向かうことは間違いない。2021年後半が最も厳しい時期だった……という展開になる可能性も高いだろう。 だが、今回の半導体不足は、各国政府に対して「大きな危機感」を抱かせる結果となった。そもそも米中関係の悪化が引き金となったことに加え、半導体が不足することによって自国内の産業が停滞するリスクが強く認識されるようになったからだ。 その結果、半導体の製造には大きな地殻変動が起きつつある。
半導体の製造地は現在、台湾や韓国に集中している。日本はかつてほど影響力がないのが実情だが、それでも、ソニーのつくるイメージセンサーや、キオクシア(旧・東芝メモリ)の製造するフラッシュメモリーなど、世界的に大きなシェアをもつ企業もまだ存在する。 半導体工場が東アジアに集中しており、それらを用いた製品の最終生産地として中国や東南アジアの国々が活用されていることを考え合わせると、この地域の地政学的な重要度がきわめて高いことがわかるだろう。 結果として、2021年に加速したのが、「世界の各地域に投資し、半導体工場を誘致する」動きだ。アメリカではニューメキシコやテキサス、アリゾナなどに、インテルやサムスン、台湾・TSMCが半導体工場を建設する。投資規模はいずれも1兆円から2兆円という大きなもので、アメリカ政府の後押しによる動きだ。 ヨーロッパでも、インテルが今後10年間で最大10兆円を投資し、2つ以上の工場をつくる。さらに、ドイツのインフィニオン・テクノロジーズがオーストリアに2000億円をかけた新工場を建て、2021年9月から生産を開始している。 当然ながら、日本もこの流れに沿った対策に着手している。 TSMCとソニーが熊本・菊陽町に合弁で半導体工場を設立することになったが、ここに国も出資する。2024年に操業を開始する同工場には8000億円程度の投資が必要になるが、その半分ほどを国が出資するかたちだ。
TSMCとソニーの合弁については、重要な点が1つある。 熊本につくられる工場は、台湾にあるTSMCの工場や、アメリカで建設が進む工場とは異なる特性をもっているのだ。他の工場が「最先端プロセス」の半導体を製造する工場であるのに対し、熊本の工場は「22nm(ナノメートル)から28nmプロセス」という“少し古い”技術を使った工場なのである。 「プロセス」とは何か? 半導体は、写真の焼きつけに似た「フォトリソグラフィ」という技術でつくられる。性能を左右する「回路の細かさ」や「トランジスタの量」は、フォトリソグラフィで使うプロセス技術の微細さに左右され、最新のものほど数字が小さい。 TSMCの場合、最新のプロセスは「5nm」で、iPhoneのメインプロセッサーなどでは、この技術で製造された半導体が使われる。 それに対し、熊本工場で製造される「22nmから28nmプロセス」の半導体はかなり数字が大きく、最新のものから遠いことがわかる。 この点について、一部では「最先端でない半導体の工場に投資するのはムダ。日本が半導体先進国に復帰するための投資にならない」という批判もある。 だが、この指摘はちょっと論点がズレている、と筆者は考えている。なぜか。
前述のように、世の中で必要とされている半導体は、決して最先端のものばかりではない。家電や自動車などでは、むしろ最新でない半導体も必要なのだ。 特に、熊本工場で製造される「22nmから28nmプロセス」の半導体は、自動車に多く使われている。それを、最新プロセスのもので代替するわけにはいかない。 自動車は日本の基軸産業であり、半導体不足による生産量の低下は国力に直結する。仮に2023年に半導体不足が解消していたとしても、その後、いつまた同じ事態が生じないとも限らない。そのようなリスクを回避し、長期的な産業の安定を図るためには、あえて最先端の半導体「ではない」工場を自国内にもつことも求められるようになっているのだ。
この方針をとるにあたって、一つ面倒な点がある。半導体工場を運営するうえで発生する特性もあり、「最先端でない工場をあえて増やす」のが難しい、という事情があるのだ。 半導体製造会社は、つねに最新の製造プロセスの半導体製造ラインに投資する。そこが最も付加価値が高く、利益率が高いからだ。 次のグラフは、TSMCの2021年第3四半期決算説明で提示された売上の比率である。先端半導体である「5nm・7nm」で半分を占め、他は一定数となっている。だから彼らは、最先端半導体製造に関する研究開発に注力し、競合他社との差別化を図っていくわけだ。
だが、それらの製造ラインが「最新」ではなくなったからといって、すぐさま価値がなくなるわけではない。前述のとおり、「最新のものではない」半導体にもニーズはあるし、それらはしだいに製造コストが低くなっていくからだ。なかでも、製造ラインの減価償却が進んでいることが大きい。 それでは、今後新たに「最新ではない半導体の製造ライン」に投資する、という戦略はどう評価すべきなのか。 最新ではないとしても、製造ラインの構築には相応のコストがかかる。かかったコストは時間をかけて償却していくことになるので、「新しい工場」で生産した半導体はそれに応じて高コストになる。 最先端半導体ならまだしも、「そうでない半導体」の製造コストが高いとなると、結局は他の半導体製造会社とのあいだで、コスト競争に負けてしまうことになる。半導体を使用する製品のメーカーにしても、高い半導体を買いつづけることは許容できない。 ならばどうするか? 国からの補助を受けて半導体工場をつくることで投資額を減らし、それによってコスト競争力を有利にするのだ。「国が産業安定のために半導体工場に投資する」というのは、そうした事情に基づく。 このような施策は確かに、日本をふたたび「半導体先端国家」にする助けにはならない。一方で、先に指摘したリスクを考慮すれば、決してムダな投資ではない。 こうした点まで含めて考えると、「半導体不足」が、単なるIT機器の製造の遅れや品不足ではなく、国家的な産業に対してさまざまな課題を突きつける事象であることがおわかりいただけるだろう。
現代ビジネス 西田 宗千佳(フリージャーナリスト)記事より抜粋